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モーター制御  ~通電制御

2025年1月12日日曜日

18. モーター制御

t f B! P L

はじめに

前回のブログでモーターが回るイメージができました。今回は、具体的なステーターコイルの通電制御について事前検討した内容を書いていきます。

PWM制御の基本

U/V/W 各相の励磁電流はPWMでスイッチングして制御します。

このとき、ハイサイドアームとローサイドアームは相補作動させています。相補作動とは、ハイサイドアームとローサイドアームをON/OFF逆に作動させることです。

PWM 相補作動(センターアラインモード)

また、ハイサイドアームとローサイドアームの相補作動時は、貫通電流によるドライバーの破損を防ぐため、ハイサイドアームとローサイドアーム切り替えタイミングにデッドタイムを設定します。

今回使用しているモータードライバー基板 X_NUCLEO_IHMO7M1 に実装されているドライバー L6230 には、相補作動とデッドタイムの機能があります。マイコン STM32F302R8 から、下図の EN1/2/3 をONとして、IN1/2/3 でハイサイドアームの作動を指示すれば、ローサイドアームはデッドタイムを確保して相補作動します。(L6230のデッドタイムは1μs)

STMicroelectronics L6230 データシートより

また、ハイサイドアームとローサイドアームを共にOFFするには、EN1/2/3をOFFにします。

マイコン STM32F302R のタイマーにも相補作動とデッドタイムの機能がありますが、今回はドライバー L6230 に任せます。

励磁電流の制御

給電側でのPWM制御

励磁電流のPWM制御を具体的に確認していきます。励磁電流をU相からPWM 20% Dutyで給電して、V相経由でGNDに流すケースを例に考えます。

  1. U相のPWM DutyがON(20%)の場合、ハイサイドアームから給電された励磁連流をV相に流すには、V相のローサイドアームもONになっている必要があります。
  2. U相のPWM DutyがOFF(80%)の場合、ハイサイドアームからの給電は止まるが、ステーターコイルの誘導起電力で電流は流れ続けようとします。
    この時、V相のローサイドアームがONになっていれば、U相のローサイドアームのMOSFETのボディダイオード経由で還流電流が流れ、フライバック電圧が発生することはありません。
    PWMが相補作動していれば、デッドタイム後にU相のローサイドアームがONとなり、U相のローサイドアーム経由で還流電流が流れます。(MOSFETは逆方向にも電流を流せます。)

励磁連流をU相からPWMで給電して、V相経由でGNDに流すケースでは、V相のローサイドアームが常時ONになっている必要があります。

①U相 Hi Arm PWM ON(20%)②U相 Hi Arm PWM OFF(80%)

2025/1/17 追記   相補作動でMOSFETのボディダイオードの逆回復電流抑制も?
L6230の逆回復時間 trr 300ns。

GND側でのPWM制御

励磁連流をU相から給電して、V相経由でGNDに流す方法として、GNDに流すV相側でPWM制御することもできます。

この場合、V相のローサイドアームをPWM Duty 20% で作動させるため、V相へのPWM Duty指示値は 80% となり、また、U相のハイサイドアームは常時ONになっている必要があります。

①V相 Lo Arm PWM ON(20%)②V相 Lo Arm PWM OFF(80%)

このケースでは、還流電流がハイサイドアーム側を流れるため、ローサイドアーム側に実装されたシャント抵抗では、励磁連流を間欠的にしか観測できないのが注意点になります。

ステーターコイルの通電制御

励磁電流のPWM制御の例を実際のモーターのステーターコイルの通電制御に適用していきます。

前回のブログでは、正弦波駆動での合成磁束ベクトルを確認しましたが、まず最初のステップとしては、より簡単な矩形波駆動で考えようと思います。

矩形波駆動では、360degを60deg毎に6つの stage に分割して通電制御します。

各相で 2stage区間(120deg) 通電しますが、正弦波駆動では3相同時通電で、励磁電流を正弦波状に給電するのに比べ、矩形波駆動では給電相とGNDに流す相はそれぞれ1つ、通電区間のPWM Duty値も一定で非常に簡潔な通電制御方法です。

通電相の切り替え

PWMによるスイッチングに加え、通電相の切り替えによる誘導起電力も検討が必要です。例えば、STAGE1 では W相からの給電を停止しますが、W相のステーターコイルの誘導起電力で励磁電流は流れ続けようとするので、不要なフライバック電圧の発生を避けるために、この還流経路を確保する必要があります。各STAGEでの通電制御の検討結果は以下になります。

   PWM   PWM作動
相補 PWMの相補作動。スイッチングに伴う誘導電流をローサイドアームで還流。
   OFF    通電相の切り替えに伴う誘導電流をローサイドアームのボディダイオードで還流。
    ON     ローサイドアームをONして励磁電流、誘導電流をGNDに流す。
相補 PWMの相補作動。スイッチングに伴う誘導電流をハイサイドアームで還流。
   OFF    通電相の切り替えに伴う誘導電流をハイサイドアームのボディダイオードで還流。
    ON     ハイサイドアームをONして給電及び誘導電流を流す。

各STAGEでの通電制御

上で示した各STAGEでの通電制御について説明していきます。
各STAGEでの励磁電流の経路及び、相補作動時の還流電流の経路は 赤矢印 → で示します。前のSTAGEでの励磁電流(通電相の切り替え)を吸収する還流電流の経路は 青矢印  で示します。

STAGE 1

励磁電流をU相からPWMで給電、V相のローサイドアーム(ON固定)経由でGNDに流す。
前STAGEでのW相の励磁電流はW相のローサイドアーム経由で還流する。

U相 Hi Arm PWM ONU相 Lo Arm 相補作動

STAGE 2

励磁電流をU相ハイサイドアーム(ON固定)から給電、GNDに流すW相側でPWM制御。
前STAGEでのV相の励磁電流はV相のハイサイドアーム経由で還流する。

W相 Lo Arm PWM ONW相 Hi Arm 相補作動

STAGE 3

励磁電流をV相からPWMで給電、W相のローサイドアーム(ON固定)経由でGNDに流す。
前STAGEでのW相の励磁電流はW相のローサイドアーム経由で還流する。

①V相 Hi Arm PWM ON(20%)②V相 Lo Arm 相補作動

STAGE 4

励磁電流をV相ハイサイドアーム(ON固定)から給電、GNDに流すU相側でPWM制御。
前STAGEでのW相の励磁電流はW相のハイサイドアーム経由で還流する。

①U相 Lo Arm PWM ON(20%)②U相 Hi Arm 相補作動

STAGE 5

励磁電流をW相からPWMで給電、U相のローサイドアーム(ON固定)経由でGNDに流す。
前STAGEでのV相の励磁電流はV相のローサイドアーム経由で還流する。

①W相 Hi Arm PWM ON(20%)②W相 Lo Arm 相補作動

STAGE 6

励磁電流をW相ハイサイドアーム(ON固定)から給電、GNDに流すV相側でPWM制御。
前STAGEでのU相の励磁電流はU相のハイサイドアーム経由で還流する。

①V相 Lo Arm PWM ON(20%)②V相 Hi Arm 相補作動

停止時の作動

停止時はハイサイドアームからの給電を止める。また、それまでの励磁電流は、U/V/W相 3相全てのローサイドアームをONして還流させ、全ての誘導起電力をローサイドアーム内で吸収する。

U/V/W相 Lo Arm ON


ステーターコイルの通電制御についての事前検討は以上です。不要なフライバック電圧が発生しない通電制御が成立しそうです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回は、事前検討した通電制御を実装し、デジタルオシロで観測した電圧・電流波形について書いていきます。リンク→ 通電制御の実装結果

モーター制御については全くの初心者なので、間違いにお気付きの方は末尾のコメント欄からご指摘いただけると幸いです。


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